【仮設】内房線長浦駅の渡り線、なぜあの配線になったのか?

はじめに

2026年9月16日にマリアナ諸島で発生した台風16号は関東地方などに大雨をもたらし、全国で18名の死者・行方不明者が生じる被害を出しました。被災された方に心よりお見舞い申し上げると共に、一日も早い復興をお祈りしています。

千葉県のJR内房線では姉ケ崎〜長浦間で多数の土砂崩れが発生して不通となり、復旧まで少なくとも3ヶ月程度を要する見込みです(本記事執筆時点。以下同じ)。同線は木更津・房総半島南部〜千葉・東京方面を行き来する多数の通勤客が利用する路線であり、長期運転見合わせの影響は深刻です。

そのような中、比較的被害の少なかった長浦〜木更津間だけでも暫定復旧させるため、長浦駅に折り返し設備を新設する工事が行われています。同駅では姉ケ崎方に渡り線が設置され、暫定復旧後は長浦駅に到着した列車が一旦姉ケ崎方に引き上げる形になると思われます。わずか数日で折り返し方法の検討と設備の設計を完了し、24時間体制で突貫工事を進めている関係者の皆様には頭が上がらない思いです。

長浦駅の配線改良の概要

ここで誰もが思う疑問は、なぜ姉ケ崎方に分岐器を付けたのか、ということでしょう。袖ケ浦方に分岐器をつければ、ホームに到着した列車がそのまま折り返すことができ、面倒な入換作業が不要になるのではないでしょうか。

袖ケ浦方に分岐器を挿入する配線例

本記事では、入換作業が必要であるにもかかわらず姉ケ崎方に分岐器を設置する配線が採用された理由を考えてみます。

説① 長浦駅ホーム上の混雑対策

長浦駅は1面2線の相対式ホームの構造です。ホームの幅は最も広いところでは10m程度ですが、端部は極めて細くなっており大量の乗換客が滞留するのは危険な構造です。

仮にこのホームで列車がそのまま折り返すことを考えてみます。大量の乗客を満載した列車が混雑したホームに到着すると……乗車する客と降車する客が入り乱れ、ホーム上は大混乱になることが想像に難くありません。最悪の場合、ホームから乗客が転落するような事態も懸念されます。

一方、ホームに到着した列車を一旦姉ケ崎方に引き上げる場合は、少なくとも乗車客と降車客の動線を分離できます。また、例えば下りホームには常に列車を停めておく(列車が発車したらすぐに奥から次の列車が到着する)ようなダイヤ設定とすれば、ホーム上への乗車客の滞留を最小限にできるため降車客はスムーズに改札に向かうことができるでしょう。

このあたりのダイヤ設定も、今後の発表で注目していきたいと思います。

説② 信号設備の改造を最小限として工期短縮

より大きな理由と考えられるのが、信号設備の問題です。

袖ケ浦方に分岐器を設置する場合、営業列車がその分岐器を通過することになります。この分岐器は駅に進入する下り列車と駅を出発する上り列車の進路を切り替えるため、常時鎖錠することができません。そのため、この分岐器が正しい方向に切り替わっている場合にのみ関係する信号機に進行信号を現示するような仕組みとする(分岐器と信号を連鎖させる)必要があります。このためには長浦駅に連動装置を新設する必要があり、大変な工期がかかると予想されます。

連動装置を新設するのにどのくらい工期がかかるのか一概に言うことはできませんが、例えば2000年の有珠山噴火の迂回運転で交換設備が再設置された函館本線目名駅の事例では、交換設備の供用開始は3月下旬の噴火から約3ヶ月経過した6月下旬だったとされています。迂回運転は6月8日にすでに終了していましたので、交換設備の再設置は迂回運転に間に合わなかったということになります。今回の内房線の例でも、連動装置の設置は工期面で全く選択肢に入らなかったのではないかと思います。

函館本線配線略図(抜粋)

一方、姉ケ崎方に分岐器を設置する場合は、信号設備の改造を最小限にできると考えられます。長浦駅にはもともと場内・出発信号機が設置されており、列車がホームに進入・進出する場合はこれらをほぼそのまま使用できます。到着後の入換作業も、分岐器を手動とし、係員の合図により入換をすることで、地上設備にはほぼ手を入れず列車を折り返させることができます。もちろん細かいところを挙げれば色々必要な工事があるのでしょうが(現場ではATS地上子の工事が行われている模様です)、前述のような連動装置の設置よりもはるかに手間と時間を削減できるでしょう。

ところで、渡り線はなぜこの向きなのか?

渡り線の向きにも着目したいです。実は、本線上の上下線間に渡り線を設置する際、渡り線はこの「対向」の向きにしないことが多いのです。

復旧工事が無事に完了し、姉ケ崎〜長浦間の運転が再開された場合も、しばらくの間この分岐器のある箇所を高速で列車が通過することになります。もしこの分岐器が故障や悪戯で切り替えられてしまったり、分岐器の手前で脱線した列車が分岐器のレールに乗り上げたら、対向する線路に列車が進入することとなり、最悪の場合正面衝突事故につながります。

このような事態を防ぐシンプルな解決策は、渡り線の向きを逆(背向)にすることです。そうすれば、仮に分岐器が誤った方向に切り替わっていても割り出しにより分岐器が破損するだけで済みます。

分岐器を背向にする配線例

たとえば、下記のような路線で上下本線間の渡り線の多くが背向となっているのはすべて同じ理由によるものです。

京成本線配線略図(抜粋)
京王線配線略図(抜粋)

実際の渡り線が対向の向きに設置されたことについては、分岐器の予備品がこれしかなかった、下り本線に引き上げる方がATSや踏切軌道回路の改修工数が少なかったなどの理由が考えられますが、これといった決め手がありません。ただ、田町駅の山手線線路に設置された上下線間渡り線も対向の向きですので、もしかするとJR東日本では分岐器の向きをあまり気にしていないのかもしれません。

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