東北本線の"本線"は尾久経由?田端経由? 路線の区間の怪

一通りに定まらない路線の区間

普段電車に乗っていて、通り過ぎる駅にどの路線が乗り入れているか分からないという状況はそう発生しません。例えば、新宿駅を通っているJR線は中央本線と山手線の2路線、大阪駅なら東海道本線と大阪環状線が乗り入れています。ところが、世の中には乗り入れている路線が曖昧な駅や、区間が一意に定まらない路線が存在しているのです。本稿ではそのような路線について見ていきます。

さて、いきなりややこしい話になりますが「東海道本線」という言葉は2種類の意味を持ちます。1つは、運行形態としての東海道本線で、関東なら湘南色の帯を巻いた電車、関西なら米原と姫路を結ぶ新快速の電車といったところでしょうか。もう1つは、書類上の路線としての東海道本線で、東京から神戸まで(+支線)を結んでいる路線です。本稿では書類上の路線としての東海道本線について見ていきます。

書類上の正式な「路線」にはさらに複数の決まり方があります。概要を下の表で説明しますが、詳細はこちらのサイトが詳しいです。

線路名称公告旧国鉄が「鉄道公報」で公示していた路線名を引き継ぎ、JR各社が公告で定めている路線名・区間。「公告」していることにはなっていますが、実際のところ各社の社報に掲載されるのみで一般人が気軽に閲覧することはできません。一部の貨物支線等の取扱いを除き、旅客営業や運賃計算には概ねこちらの路線名・区間が使用されているようです。
事業基本計画鉄道事業法の規定によりJR各社が国土交通省に提出する書類です。事業基本計画の記載内容は1980年に施行された国鉄再建法施行令という法令の別表第一に定められた路線名・区間の流れをくんでおり、新幹線を別路線扱いしている、「東海道線」のように「本線」の「本」を表記しない、東京駅からの距離で機械的に起終点を決めるなど線路名称公告といくつか違いがみられます。

このほか、趣味者の多大な努力によってマルスシステムの経由線の一覧も明らかになっています。詳細は後述しますが、支線の取り扱い等を中心に上記線路名称公告とも事業基本計画とも異なっている部分があります。

JR旅客会社とJR貨物で路線の区間が異なる場合もあります。有名なのは武蔵野線の武蔵浦和、新松戸付近の三角線で、JR貨物では線路名称・基本計画とも三角線を路線として扱っていますが、JR東日本では営業キロ設定がなく運賃計算上は武蔵浦和・新松戸経由となります。この差異について本稿では今後触れず、以降はJR旅客会社の線路名称・基本計画を基準として考えていきたいと思います。

線路名称公告と事業基本計画で区間が異なる怪

線路名称公告と事業基本計画は、その成り立ちから区間が異なる例があります。例えば、JR西日本の大阪環状線の区間は次のようになっています。

線路名称公告大阪・大正・大阪間
事業基本計画天王寺~新今宮
大阪環状線の区間
大阪環状線の区間

線路名称公告が文字通り環状線となっているのに対し、事業基本計画は民営化当時の関西本線との重複区間であった新今宮~天王寺間を除いた区間を定めています。前記の通り、事業基本計画は国鉄再建法という「国鉄再建のため、どの赤字路線を廃止するか」という趣旨の法律の施行令で定めされたものをもとにしており、そのような法令で重複区間の存在は望ましくなかったのであろうと思います。

なお、民営化後の1997年に今宮駅に大阪環状線のホームが設置された結果、事業基本計画においても新たに今宮~新今宮間が関西本線と大阪環状線の重複区間となってしまいました。同様に民営化後に新たに重複区間が生まれた例としては東海道本線・中央本線の金山~名古屋間、鹿児島本線・日豊本線の小倉~西小倉間があります。

因みに、JR東日本・JR四国ではそれぞれ1998年、1988年に線路名称公告の区間を事業基本計画にあわせる改正を行っており、上記のような線路名称公告と事業基本計画との差異は現存していません。

線路名称公告、事業基本計画とマルスシステムで支線の取扱いが異なる例

東北本線の線路名称公告、事業基本計画上での表記は次のようになっています(作者の手元に1998年刊行の『停車場変遷大事典 国鉄・JR編』掲載時点での情報しかないのですが、その後東北本線盛岡~青森間は廃止されています)。

線路名称公告東京・田端・仙台・青森間、日暮里・尾久・赤羽間、赤羽・武蔵浦和・大宮間、東京・白石蔵王・古川・盛岡間、長町・宮城野・東仙台間及び岩切・利府間
事業基本計画東京~王子~仙台~青森
日暮里~尾久~赤羽
赤羽~武蔵浦和~大宮
長町~宮城野~東仙台
岩切~利府

特に尾久・田端周辺に着目すると、表記のゆれはありますがいずれも尾久経由を支線扱いしていることが分かります。挙げられている区間のうち東京~青森間を便宜上"本線"と呼称するなら、東北本線の"本線"は田端経由ということになります。

ところが、前述のページによるとマルスシステム上では事情が異なるようです。マルス経由線では尾久経由が東北本線の"本線"に含まれています。田端経由のルートは日暮里~田端間が山手線の一部、田端~赤羽間が東北本線の支線(東北本線2)と扱われるようです。実際の運行形態に合わせたものなのでしょうか、このあたりはよく分かりません。この区間は東京付近特定区間に含まれるため実際の券面に経由表記が印字されない場合もありますが、経由表記がなされた場合、その表記は「山手・東北」となる場合があるようです。

東北本線の区間
東北本線の区間

ちなみに、非常にややこしいことにマルス券裏の磁気符号は東京~田端~盛岡で1経由となっているそうです。もっとも、そもそもこの区間は経路特定区間であるうえに東京付近特定区間及び東京近郊区間にも含まれているので、一般の旅客が尾久経由・田端経由の違いを意識することはまずないと思います。

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