「単機回送」という用語は誤用?

「単機回送」という用語は誤用?

はじめに

機関区への入出区などで機関車のみで運転される列車のことを、俗に「単機回送」と言うことがあります。国立国会図書館デジタルコレクションでこの用語を検索すると鉄道趣味雑誌のほか国鉄職員が執筆した雑誌記事のなかにも登場することがあり、昔から部内でも用例があったようです。

現在の列車回数は旅客・貨物・小運転・単機回送など併せて片道122回、線路容量は133回あるが、中国支社5カ年計画によると、列車回数は下表の如く、

幡生・下関地区改良計画」江島淳・中川章 交通技術1962年11月号(著者は国鉄本社建設局停車場課の方である。)

しかし実は、この用語は列車種別としては間違いであるというのはご存知でしょうか?

EF210形の単機回送
EF210形の単機回送

国鉄時代の列車種別

EF64形の単機回送
EF64形の単機回送

国鉄時代の制度では、列車種別は次のように決められていました。

国鉄時代の列車種別分類(1971年)
国鉄時代の列車種別分類(1971年)

まず、列車は「旅客列車」、「荷物列車」、「混合列車」、「貨物列車」、「特殊列車」、「単行機関車列車」の6つに分類されました。また、旅客列車は特別急行旅客列車、普通急行旅客列車、普通旅客列車、回送旅客列車からなり、特殊列車はお召列車、御乗用列車、試運転列車、工事列車、排雪列車、救援列車、配給列車に分類されていました。

この分類を見ていただければわかる通り、「回送列車」と「単行機関車列車」は全く別物ということが分かります。「回送列車」は正確には「回送旅客列車」として旅客列車の一種であるのに対し、「単行機関車列車」は旅客列車ではなく、旅客列車や貨物列車と同列の分類ということになります。よく考えてみると、列車番号の頭につけられることがある記号も回送列車では「回」なのに対し単機では「単」であることからも、単行機関車列車が回送列車ではないということがご理解いただけるかと思います。

ただし、細かいところですが工場出場直後などの試運転の場合は単行の機関車であっても「試運転列車」に分類されます。また、DE15形などラッセルヘッドを装備した機関車が除雪のために出動する場合は「排雪列車」に分類されます(これらの場合であっても回送列車ではないことは言うまでもありません)。

「単機回送」が完全に間違いとも言えない理由

西武40000系の甲種輸送
西武40000系の甲種輸送

ここまでで記事を終わってもいいのですが、さらに突っ込んで考えてみると「単機回送」という用語は必ずしも間違いとも言えない、とも思います。

そもそも「回送」という言葉の意味は「電車やバスなどを、空車で他の場所へ動かすこと。」(デジタル大辞泉)です。実際、列車種別としての回送列車(回送旅客列車)以外でも「回送」という用語が使用される場合は多いです。例えば、貨車が検査のため工場に入出場する際は営業貨物列車や配給列車に連結される場合であっても「回送」と表現されます。また、2両編成以上で運行される営業旅客列車のうち一部の車両を締め切って運行する場合も、「回送扱い」と表現されます。

このように「回送」という用語を列車種別としての回送列車よりも広義にとらえるなら、「機関車を他の車両を牽引せずに(=空車で)他の場所に移動する」ものである単行機関車列車を「回送」と表現するのも全く間違いではありません。ただし、この立場をとるのであれば、「甲種回送」や「配給回送」という用語も認める必要があります。

「甲種輸送」は、車両メーカーを出場した新車などを貨物列車として輸送するものですので、これは営業貨物列車となります。また、JR各社が機関車等の牽引で車両を輸送する際に使用している列車種別「配給列車」は特殊列車の一種です。しかし、これらも「電車を空車で他の場所へ動かすこと」に該当するため、そのような意味では「甲種回送」「配給回送」と言っても間違いではないことになります。

結局、「単機回送」「甲種回送」「配給回送」等の用語が正しいか間違いか、というのは「回送」という用語を狭義(列車種別の一種)として捉えるか広義(辞書上の意味)で捉えるかによります。現在の趣味界隈では「甲種回送」は間違いとされる一方で「単機回送」の用語はかなり広く用いられており、ダブルスタンダードともいえる状況になっているのかもしれません。

サイト中に誤りを発見された方は、誤り報告フォームでお知らせください。ただし、すぐに対応できない場合があります。

お役に立ちましたらシェアしてください!

新着情報

  • 全て
  • JR
  • 私鉄
  • 地下鉄
  • 特集

アクセスランキング [2025年6月]

特集記事一覧
公開日
閉じる
閉じる