JR貨物の新車が甲種輸送になる理由

JR貨物の新車が甲種輸送になる理由

JR貨物の新車の甲種輸送

鉄道会社に新たに登場した車両が「甲種輸送」されるとSNSや鉄道ニュースサイト上で話題になることがありますが、眺めているとJR貨物の新車が甲種輸送されている事例があります。

DD200形の輸送(イメージ)
DD200形の輸送(イメージ)

このように、製造されたのが機関車であるか貨車であるか、また製造場所によらずJR貨物の新車は甲種輸送で出場しています。なぜ、回送ではなく甲種輸送なのでしょうか?

甲種輸送とは

ここでは、JR貨物による甲種輸送について述べます。

甲種鉄道車両輸送(甲種輸送)とは、鉄道車両を貨車に積載する代わりに車両そのものの車輪を使用して貨物列車により輸送することをいいます。「貨物列車」なのでJR貨物の営業列車であり、非営業の列車である回送列車や配給列車とは似て非なるものです。すなわち、各社の管内のみでしか運転できない回送列車や配給列車と異なり、物理的に可能な限り全国のあらゆるJR線を輸送経路にすることができます(JR貨物の営業線区以外では、JR貨物が臨時免許を取得して甲種輸送列車を運転しています)。

また、輸送可能な「車両」の定義は幅広く、車両の形をしていて車輪さえついていればなんでも大丈夫なのだろうかと思うくらい様々な輸送の前例が存在します。変わったところでは保線用のマルタイ海外輸出用の電車艤装前の電車の鋼体であっても輸送された例があります。一方、配給列車や回送列車で輸送できる車両は、車籍があり、その鉄道会社の車両として国交省への手続きや法定検査を行うなどした車両に限られます(後述する「公式試運転を兼ねた回送」を除く)。従って、新製直後や廃車後などで車籍をもたない車両はもちろん、台車を仮台車とするなど普段行わない大がかりな改造や構造の変更を行った車両は原則回送列車や配給列車では輸送できません。

輸送の自由度が大きい代わりに、甲種輸送では輸送の数か月前から申し込みを行い、可否や条件、ダイヤを入念に事前検討する必要があります。また、輸送直前には車両の現物について台車、ブレーキ、連結器、車体寸法などが所定の要件を満たしているか輸送検査が行われます。もっとも、このような事前検討や検査の大半は機関車牽引の配給輸送でも行われていることと思いますが。

特殊貨物検査票
特殊貨物検査票は、甲種輸送に先だって所定の検査を実施した証

まとめると次のようになります。

違い回送・配給甲種輸送
列車の区分事業用列車営業列車
運転可能な線区各社の管内のみ(場合によっては直通運転先も可能)物理的に可能な限りJR全線
輸送可能な車両車籍があり、所定の法的手続きを経た車両個別審査を前提に幅広く認められる

すなわち、次のような場合は必ず甲種輸送となることが分かります。

  • 海外輸出車両やマルタイ、新製直後の車両、保存車両など車籍のない車両を輸送する場合
  • ある会社の車籍をもつ車両を他社経由で輸送する場合(ただし、普段から直通運転を行っている会社の車両などであれば回送や配給となる例があります)
  • 車籍のある車両でも、台車交換など普段は行わない大がかりな改造や構造変更を行っている場合(ただし、私鉄では近鉄のように台車交換を伴う検査回送を頻繁に行っている会社もあります)
西武鉄道40000系の甲種輸送
西武鉄道40000系の甲種輸送
富士急行6000系の甲種輸送
富士急行6000系の甲種輸送。もとJR東日本205系だが、先頭車化改造をしている上既に廃車済みで車籍がないため甲種輸送となる
203系の配給輸送
203系の配給輸送。目的地到着後廃車手続きが行われるため、この時点では車籍がある

ちなみに、夜間に線路閉鎖を行って車両を移動させる場合はこの限りでありません。線路閉鎖を行った場合は上記のような場合でも合法的に営業線上で車両を輸送することができます。ただし、JR各社ではそのような例は多くありません。

このほか、あまり知られていませんが返回送の私有貨車(石油輸送用タンク車など)は甲種輸送の扱いとなります。ただ、上で説明したような甲種輸送と異なり輸送前の事前検討や入念な検査は行わない場合が大半なので、趣味的には一般の貨車の回送と同列に扱って差し支えないと思います。

新車が甲種輸送になる理由、ならない理由

車両メーカーから出場する車両は甲種輸送になる場合もあれば、自力走行で所属する車両基地へ向かう場合もあります。どのような違いがあるのでしょうか。

そもそも車両メーカーから出場する車両は、物理的に構内を出てきた段階では鉄道会社に引き渡されていないことがあります。これらの車両は鉄道会社の車両基地に到着し、受取検査や公式試運転などの一連の手続きの過程ではじめて鉄道会社に引き渡され、車籍に編入されます車両メーカーから出場したばかりで鉄道会社に引き渡されていない車両はまだ車籍をもたないため、原則甲種輸送または夜間の線路閉鎖により輸送されます。

甲種輸送の車両に掲示された車両メーカーの社章。多くの場合、甲種輸送時点では鉄道会社側に引き渡されておらず、受取検査や公式試運転などを経て受け渡しとなる
甲種輸送の車両に掲示された車両メーカーの社章。多くの場合、甲種輸送時点では鉄道会社側に引き渡されておらず、受取検査や公式試運転などを経て受け渡しとなる

一方、JR各社管内の車両メーカーから出場する車両は自力走行で所属する車両基地へ向かう場合があります。これは、予め車両メーカー内で形式的な受取検査を行い「公式試運転」という建前で所属基地まで回送するもので、所定の手続きを省略しているわけではありません。

JR貨物の新車輸送

さて、本題に戻ります。JR貨物の機関車の新車が甲種輸送になるのは、単純にまだJR貨物に引き渡されていないからです。まだJR貨物に車籍編入されていない以上、JR貨物の通常の手続きで回送することはできず、「甲種輸送」により輸送する必要があります。機関車は車両メーカーの最寄り駅(川崎重工兵庫工場では神戸貨物ターミナル駅など、日本車輌製造豊川事業所では西浜松駅)まで甲種輸送されたのち、本線試運転を行いJR貨物に引き渡されます。このとき、甲種輸送の荷主は車両メーカーとなりますのでJR貨物は車両メーカーから運賃を収受することになりますが、これはもともとJR貨物が新車の製造費用として車両メーカーに支払う代金の一部から支出されているのでなんだか変な感じがしますね。

一方、新車でない場合は甲種輸送とはならず回送になることがあります。たとえば、DF200-205が東海地区への転用改造を終え川崎重工兵庫工場を出場した際は甲種輸送の輸送票や特殊貨物検査票は掲示されず、かわりに区名札の所に回送車票が差してあります。

ただし、貨車の車両輸送は少々事情が異なります。新造貨車が車両メーカーを出場する際、国鉄~JR発足直後頃は回送扱いであったようですが、近年はほとんど甲種輸送となっていることが各種鉄道雑誌の記載より明らかになっています。しかし、通常の甲種輸送と明らかに異なる点がいくつかあります。

前者の事実から、新車の貨車の甲種輸送は現在でも回送に近いような扱いになっているのかもしれませんが、詳細は不明です。詳しくご存じの方はご教示いただきたく思います。

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(回送列車の列車種別上の扱いについて明確化)
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