【磐越西線気動車化】JR東日本の「架線撤去」次の対象は?

【磐越西線気動車化】JR東日本の「架線撤去」次の対象は?

はじめに

JR東日本の2021年3月期決算説明会資料において、経費削減のための設備のスリム化として、非電化や単線化の検討を進めるという発表がありました。さらに、2022年3月ダイヤ改正において、磐越西線会津若松~喜多方間の定期列車全列車気動車化が正式に発表されました。本記事では、電化区間の架線撤去(非電化)の動きについて見ていきます。

電化区間の架線撤去のメリット・デメリット

電化区間の架線撤去のメリットは、まず設備の保守コストや更新コストを大幅に削減できることです。架線だけでなく膨大なコストと労力を必要とする変電設備・配電設備の日々のメンテナンスや法定点検、老朽化時の更新などが不要となるのは大きなメリットです。

また、交流電化区間では車両価格の高く、1両単位の運転ができない交流・交直流電車が不要となるというメリットがあります。交流電車や交直流電車は直流電車で使用されるような装置に加えて交流を直流に変換する装置が必要であり、車両価格が高くなるうえ機器搭載スペースの関係から最低でも2両編成以上とする必要があります。

最短2両編成の701系
最短2両編成の701系

デメリットとしては、コスト面では気動車の導入により車両新製コスト、運転士の動力車運転免許再取得費用などがかかります。前者は老朽化による車両更新のタイミングで切り替えればあまり深刻に考える必要はないかもしれませんが、後者については運転士が気動車運転のための研修で不在にしている間の代替人員の確保も含め、かなり困難となる場合もありそうです。また、電車と気動車では法定検査やメンテナンスの方法も全く異なり、検査のための要員の再教育や気動車エンジンの保守設備・給油設備が必要となります。ただし、JR東日本では電車扱いの蓄電池動車や電車の免許でも条件付きで運転できる電気式気動車の導入を進めており、運転免許の問題は克服されつつあります。

烏山線のEV-E301系(ACCUM)
烏山線のEV-E301系(ACCUM)

特にJR線では電車がその路線を通れなくなること自体のデメリットも見逃せません。気候変動の影響で災害が激甚化し主要幹線で毎年のように長期の運転見合わせが生じており、主要幹線を迂回するローカル線の重要性は高まっています。例えば越後線は寝台特急の迂回にも利用されたことがあります。事業用機関車の縮小の流れのなか、異常時・災害時の迂回運転や車両回送などで電車を輸送する必要が生じた場合、最悪JR貨物に甲種輸送を依頼しなければならなくなったり、陸送という手段をとらなければならなくなる可能性もあります。

電化区間の架線撤去の実例

電化区間の架線撤去は、前例があまり多くない複線区間の線路撤去に比べてもさらに前例が少なくなります。

例えば、名鉄三河線の末端区間(西中金~猿投間、碧南~吉良吉田間)名鉄八百津線は1984年から1990年にかけて電化設備を撤去しています。これらの線区では気動車(レールバス)による運転が行われていましたが、結局2004年までにいずれの区間も廃止されてしまっています。また、宮城県にあった栗原電鉄も第三セクター化後に電化設備を廃止しくりはら田園鉄道に改称しています。こちらも2007年に全線廃止となってしまいました。

吉良吉田駅の三河線廃線跡
吉良吉田駅の三河線廃線跡

今後の予定では、2022年秋予定の西九州新幹線(武雄温泉~長崎間)開業に伴い並行在来線として上下分離方式での運行となる長崎本線肥前浜~諫早間も、架線撤去の上気動車による運転となる予定です。

架線こそ撤去されていないものの、旅客列車の全列車がディーゼルカーとして運転されている区間もあります。肥薩おれんじ鉄道線では、第三セクターとして開業して以降八代~川内間の定期旅客列車を全て気動車で運転しています。また、こちらは非電化時代から一貫して電車による運転が行われていない線区ですが、道南いさりび鉄道線羽越本線村上~鶴岡間(いずれも定期普通列車のみ)はいずれも気動車による運転が行われています。いずれも交流電化区間であり、単行運転ができない不便さや車両価格の高さが原因と考えられます。なお、これらの線区では特急列車や貨物列車のために電化設備自体は設置されています。

道南いさりび鉄道の気動車列車
道南いさりび鉄道の気動車列車

磐越西線会津若松~喜多方間の気動車統一

決算説明会資料で電化設備撤去の計画が明らかになった数か月後、地元紙の報道により磐越西線会津若松~喜多方間の電化設備撤去が計画されていることが明らかになりました。また、2021年12月17日のJR東日本仙台支社ダイヤ改正プレスリリースにおいて、磐越西線は会津若松駅で系統分離され、会津若松~喜多方間の全列車が気動車化されることが発表されました。

磐越西線配線略図(抜粋)
磐越西線配線略図(抜粋)

この区間はもともと郡山に直通する列車など1日2往復が電車、残り13往復が気動車で運転されていました。明らかにJRにとって電化のメリットの薄い区間であったのは事実ですが、喜多方から東北新幹線に乗車する場合の乗り換え回数は増加せざるを得ません。旅客の不便を少なくするため、現行の直通列車は会津若松駅での対面乗り換えに変更されるそうです。

現在は電化されている磐越西線会津若松~喜多方間
現在は電化されている磐越西線会津若松~喜多方間

今後の動向は?

今後同様に架線撤去が行われる区間があるとすれば、次のような区間が考えられると思います。

  • 越後線吉田~柏崎間、弥彦線
  • 奥羽本線 新庄~大曲間
  • 仙石線 高城町~石巻間
  • 中央本線 辰野~塩尻間
  • 鶴見線

以下、個別に紹介していきます。

2022年3月、八高線北藤岡駅など複数駅で構内線路の架線撤去を確認しました。詳細は当該記事をご覧ください。

越後線吉田~柏崎間、弥彦線

弥彦線配線略図(抜粋)
弥彦線配線略図(抜粋)

これらの線区はいずれも国鉄末期の1984年に電化されていますが、短編成の運転であるうえ日中には大きく列車間隔があく時間帯もあり、架線撤去の検討対象となっている可能性が高いと考えています。また、新潟車両センターに3両7編成が残る115系との動向の関連も注目されます。これらの線区を気動車で置き換え、電車の所要数を削減する意図があるのかもしれません。周辺に気動車の車両基地である新津運輸区もあります。

ただし、電化当時に自治体より助成を受けている可能性があり、自治体との協議によっては現状通り電車運転となる可能性もあります。

2022年3月追記:E129系の追加投入により115系新潟車は定期運用を失ったため、この区間に気動車を導入する可能性は低くなったと考えています。

越後線・弥彦線吉田駅
越後線・弥彦線吉田駅

仙石線高城町~石巻間

この区間はハイブリッド気動車で運転される仙石東北ラインの開通に伴い、日中の電車列車が減便となりました。2021年ダイヤ改正後は日中2時間運転間隔が空く区間もあります。

ただし、ホームの高さがステップのない客車用(1100mm)のため、ドアステップの高さがホームより低くなってしまう石巻線のキハ110系をそのまま乗り入れさせることはできません(過去、ステップを埋めることで乗り入れた実績があります)。また、東日本大震災から復旧した区間では電化設備の減価償却が終わっていない可能性もあります。

奥羽本線新庄~大曲間

奥羽本線配線略図(抜粋)
奥羽本線配線略図(抜粋)

かつて主要幹線だった区間ですが、山形・秋田両新幹線の開業などに伴い特急列車・貨物列車はすべて廃止されています。特に湯沢以南は大きく列車間隔が空く時間もあります。

直近で電化設備撤去となる可能性はそれほど多くないと考えていますが、この区間で現在使用される701系の老朽取り換えの際は気動車の導入で設備投資を抑えるという選択肢が検討されるかもしれません。

中央本線辰野~塩尻間

中央本線配線略図(抜粋)
中央本線配線略図(抜粋)

中央本線辰野~塩尻間も一つの可能性として考えられます。この区間は1983年に開通したみどり湖駅経由の新線が開業する前の旧線で、列車は普通列車のみ、わずか11往復です。かつて荷物車改造の単行電車であるクモハ123-1が往復していたことでも知られます。

この区間を気動車化するとなると車両は長野総合車両センター所属の飯山線用車、小海線営業所所属の小海線用車を使用することが考えられますが、いずれも回送距離があるため松本駅などに気動車の給油・検修設備等を新設する必要があるかもしれません。また、万一みどり湖経由の新線が不通となった場合の迂回経路としての役割もあると考えられ、越後線などに比べると可能性は低いような印象です。

中央本線信濃川島駅
中央本線信濃川島駅

鶴見線

鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)

205系3両編成による運転が行われていますが、日中大きく列車間隔があく区間や日中の運転がない区間があり、新聞燃料電池列車による架線レス化を匂わせる記述があった路線です。ただし、最近の報道やJR東日本の発表を見る限りではかなり現実味が薄くなっている印象があります。

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