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【誤解?】JR東日本「単線化」とは何を指しているのか?

【誤解?】JR東日本「単線化」とは何を指しているのか?

はじめに

少し前の話となりますが、JR東日本の2021年3月期決算説明会資料において、経費削減のための設備のスリム化として、非電化や単線化の検討を進めるという発表がありました。本記事では、このうち「単線化」について見ていきます。

ふつう、鉄道趣味者が「単線化」という用語を聞くと駅間の複線区間の片方の線路が撤去されて単線となる場合を想像する方がほとんどだと思います。ところが、鉄道の歴史上そのような「単線化」の例はそれほど多くありません。Wikipediaを参考に代表的な例を以下に示します。

  • 太平洋戦争中の鉄材供出等に伴うもの(御殿場線、東武日光線など多数)
  • 災害等で片方の線路を放棄したもの(常磐線大野~双葉間、室蘭本線栗山~栗丘間)
  • 路線の部分廃止に伴うもの(南海天王寺支線)
  • 駅前再開発に伴うもの(福井鉄道福武線福井駅前駅付近)
常磐線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
常磐線双葉駅
常磐線双葉駅

このように、保守経費節減を目的として複線の片方を撤去する「単線化」の例は過去ほとんどないことが分かります。なぜなのでしょうか。

いわゆる「単線化」は経費削減にならない?

複線の片方を撤去する「単線化」のメリットは何でしょうか。まず、線路のメンテナンスに要するコストを削減できることがあります。これはメンテナンスする線路の長さが半減するので当然です。ただし、単線化した区間の線路には複線時代に比較して2倍の列車が通過することになり、1線路あたりの保守費用は増加するため、線路が半減したとしても単純にコストも半減というわけにはいかないことに注意が必要です。

また、本州日本海側や北海道などの豪雪地帯では除雪費用の圧縮にも貢献します。災害により線路が寸断されたり橋梁の老朽化で架け替えが必要になった場合、単線化で工事費を大幅に削減できる可能性もあります。実際、前述した室蘭本線の例では1990年に下り線のトンネルが崩落した際にそのまま下り線を放棄し上り線を利用した単線運転で営業を再開しています。

室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)

一方で、デメリットも多いです。まず、単線化により連動装置や単線用の信号設備、踏切の軌道回路、標識類などを一から設置しなおす必要があり、莫大な設備投資が必要となります。特に信号設備については複線用の信号設備を一旦撤去した上で単線用の信号設備を設置、さらに(単線化した区間に交換設備を一切設けないなら不要かもしれませんが)交換駅に連動装置や分岐器を導入することにより却ってメンテナンスコストが上昇したり、減価償却費・固定資産税負担が経費削減効果を上回ってしまう可能性も考えられます。また、トンネル、橋梁などについては線路が単線でも複線でもメンテナンスコストが大きくは変わらない可能性があります(もちろん、上下線で別々のトンネル・橋梁となっている区間は別です)。加えて、言うまでもないことですが列車交換の場所が制約されるためダイヤの自由度が下がり、輸送障害時の運転整理が難しくなります。多数の死傷者を出す駅間での正面衝突事故の可能性を原理的に0にすることができない単線は複線に比べて保安度が下がるため、単なるコスト削減を理由にした単線化が利用者や沿線自治体、国交省に受け入れられるか、という観点でも困難があります。

このように、多くの場合はデメリットの方が大きいと思われる複線区間の線路撤去、仮にコスト削減につながる区間があるとしたらJR東日本管内ではどのような例があるのでしょうか?

まず、上越線の清水峠越え区間が挙げられます。この区間の定期列車はわずか旅客5往復・貨物7往復であり、また上下線でトンネルが別々となっている区間もあるため一定のコスト削減効果があると考えられます。豪雪地帯のため、特に地上を走行する上り線を廃止しトンネル区間の多い下り線による単線運転にすれば除雪費用を削減することができるでしょう。ただし、関東地方と日本海側を結ぶ貨物の大動脈でありながら降雪によるダイヤ乱れも多い区間であり、広範囲にダイヤ乱れを増幅させかねない設備変更が国交省などから認められる可能性は極めて低いかと思います。また、奥羽本線などにも一部駅間のみ複線化されている部分があり、列車本数によっては検討の対象となるかもしれません。こちらも、踏切軌道回路の新設や信号設備改修などの負担が重ければ経費削減効果を打ち消してしまう可能性はあります。

上越線配線略図(抜粋)
上越線配線略図(抜粋)
上越線配線略図(抜粋)
上越線配線略図(抜粋)
上越線土合駅
上越線土合駅
上越線土合駅
下り線はトンネル内
奥羽本線配線略図(抜粋)
奥羽本線配線略図(抜粋)

また、短距離ではありますが鶴見線浅野~扇町間も挙げておきたいです。この区間は浅野~武蔵白石間が旅客複線+貨物単線、浜川崎~扇町間が旅客と貨物の単線並列となっています。そもそも単線並列や複線+単線というイレギュラーな配線であるうえ、貨物列車の本数は一時に比べて激減しており、これらの区間で線路を撤去すればメンテナンスコストの低減につながるかと思います。ただ、貨物線の管轄はJR東日本ではなくJR貨物の可能性があり、もしそうだとしたら貨物線を撤去してもJR東日本のコスト削減には寄与しない可能性もあります。

鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)
鶴見線配線略図(抜粋)

JR東日本の「単線化」の真意とは?

しかし、JR東日本が決算資料でいう「単線化」とは、上で言うような複線区間の線路撤去を意味しない可能性があると考えています。根拠は、上の資料の16ページにある以下の記述です。

単線化等により、線路や信号設備等を撤去

JR東日本2021年3月期決算説明会資料より。なお、2022年3月期中間決算説明会資料にも同様の表現あり

「信号設備等を撤去」という記述は、複線区間の線路撤去とは根本的に矛盾しています。なぜなら、前述の通り複線区間の線路の片方を撤去した場合は複線用の信号設備を撤去した上で単線用の信号設備を設置する必要があり、信号設備に関しては減価償却費や固定資産税、保守コストがむしろ増えかねないためです。また、交換駅を設置する場合は連動装置や分岐器を新設する必要があります。

このことから、JR東日本がいう「単線化」とは、単線区間における駅構内の交換設備の撤去(いわゆる、棒線化)を指している可能性があると思います。交換設備の撤去であれば、駅構内の連動装置や分岐器、信号の撤去で大幅にメンテナンスコストを削減することができます。実際、JR東日本管内では様々な路線で単線区間での交換設備の撤去が進んでおり、内房線、八高線など関東近郊の路線でも撤去が進んでいます。

  • 八高線竹沢駅(2016年10月)
  • 米坂線越後金丸駅(2016年12月)
  • 内房線那古船形駅、青梅線沢井駅(2019年3月)
  • 内房線九重駅(2021年3月)

JR社内で駅構内の交換設備の撤去を「単線化」と呼んでいる例としては、例えば2018年2月のJR東日本盛岡支社のプレスリリースで「構内単線化」という表現が使用されています。このことからも、決算説明会資料における「単線化」が駅構内の配線簡素化を指している可能性は否定できません。

今後、このような動きが加速していくのか注目されます。

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