常磐線経由の貨物列車は復活するのか?

常磐線経由の貨物列車は復活するのか?

はじめに

常磐線は首都圏と仙台方面を海岸経由で結んでいます。東日本大震災以前は貨物列車が全線で運行されていましたが、津波被害や原子力発電所事故の影響で不通区間が生じたことから福島臨海鉄道が接続する泉駅より北では貨物列車が運行されなくなりました。本記事では常磐線経由の貨物列車が復活するのかについて考察します。

東日本大震災以前の運行形態

EF510型牽引の貨物列車(イメージ)
EF510型牽引の貨物列車(イメージ)

東日本大震災以前、常磐線では多数の貨物列車が運行されていました。首都圏と東北・北海道を結ぶ長距離貨物列車4往復のほか、泉駅から福島臨海鉄道に乗り入れる貨物列車が3往復、さらに当時は貨物を扱っていた水戸駅までの区間列車が1往復運転されていました。牽引機関車は泉駅発着の列車の全区間とその他の列車の水戸駅以南がJR東日本田端運転所所属のEF81形・EF510形、泉駅発着の列車を除く水戸駅以北がJR貨物のED75形・EH500形でしたが、2010年12月より新たに東北方面~関東までEH500形の直通運用が設定されました。今後は常磐線経由でのEH500形の運用が増加していくものと思われていました。

ところが、2011年3月11日に発生した東日本大震災で状況が一変します。津波による日本鉄道史上最大級の被害に加え、福島第一原子力発電所の事故の影響もあり久ノ浜~亘理間111.2kmが長期不通となりました。これに伴い常磐線経由で運行されていた長距離貨物列車4往復はすべて東北本線を迂回運転し、翌2012年3月のダイヤ改正にて正式に東北本線経由に変更されました。この結果、常磐線馬橋以北で運転される貨物列車は土浦駅発着の1往復と泉駅発着の2往復に削減されてしまい、なんとも寂しい列車本数となってしまいました。2020年に富岡~浪江間が運転を再開し常磐線全線が復旧した後も、泉駅以北の貨物列車は試運転も含めて運転されておらず、今後貨物列車が復活するのか非常に気がかりな状況となっています。

常磐線経由列車のメリット・デメリット

EH500型牽引の貨物列車(イメージ)
EH500型牽引の貨物列車(イメージ)

近年は幹線系統の在来線でも自然災害による長期運転見合わせが多発しており、2019年10月の令和元年東日本台風では東北本線が2週間近く運転を見合わせ、2022年の福島県沖地震でも福島駅付近の橋梁に被害が出ました。予め貨物列車の運行経路を増やしておくことは災害時のリスク分散や円滑な代替輸送の確保に有効です。

デメリットは所要時間が長くなることです。東日本大震災前のダイヤで、常磐線経由の下り95レは新座貨物ターミナル駅を23:07に発車し宮城野駅(現・仙台貨物ターミナル駅)に6:11に到着していましたが、東北本線経由の3067レは新座22:23通過、宮城野4:26通過でした。常磐線経由の列車は所要時間が1時間延びていることになります。この列車以外も常磐線経由の列車は深夜にいわき駅などで長時間停車する列車もあり、東京から仙台までの所要時間が10時間を超える列車も珍しくありませんでした。また、貨物列車を入線させる前に線路を所有する旅客会社との調整が必要となります。貨車やそれを牽引する機関車は軸重が重いため、線路への負荷が増加し保線作業の負担が増えることから、旅客会社が難色を示す可能性も高いです。

常磐線経由の貨物列車は運行可能なのか?

それでは、政治的・経済的な制約はとりあえず置いておいて、常磐線経由の貨物列車が物理的に運行可能なのかどうかを、ダイヤ、施設の両面から考察していきます。

まず、常磐線経由の貨物列車が運行されていた2009年3月改正時点でのダイヤグラムと2022年3月改正のダイヤグラムを比較してみます。赤色実線が特急「(スーパー)ひたち」、黒色実線が普通列車、黒色破線が貨物列車を表します。

常磐線ダイヤグラム(2009年)
常磐線ダイヤグラム(2009年)
常磐線ダイヤグラム(2022年)
常磐線ダイヤグラム(2022年)

普通列車・特急列車ともに大幅に減便されていることが分かります。いわき~原ノ町間を通しで運転する普通列車は16往復から11往復に大きく減り、特急列車も原ノ町止まりの2往復を含めて6往復あったのが3往復に減っています。このことから、日中を中心に新たに列車を設定する余地はあると考えられます。

一方で、新たなダイヤの制約も生じています。大野~双葉間は東日本大震災以前は複線となっていましたが、復旧時に単線とされ大野駅・双葉駅も交換不能となったため、夜ノ森~浪江間の15.6kmにわたって列車交換が不能となりました。また、駒ケ嶺~浜吉田間では復旧時に線路が内陸に移設され、この際に坂元駅の棒線化を含む配線の簡素化が行われました。新地駅の待避線や坂元駅の交換設備は東日本大震災以前は貨物列車が使用しており、貨物列車を運転再開するにあたり交換設備の復活が必要な駅がある可能性があります。なお、少なくとも双葉駅・坂元駅は将来交換設備の設置が可能な構造で駅舎・路盤が復旧されているようです。

常磐線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
棒線化された双葉駅
棒線化された双葉駅
移設後の坂元駅
移設後の坂元駅

また、夜間に貨物列車を運転する場合は保守間合いの確保の問題もあります。震災前のダイヤでは2往復の貨物列車がいわき~岩沼間を深夜に走行していましたが、この区間では現在深夜に列車が運転されておらず保守間合いとして確保されている可能性が高いです。貨物列車の運転再開にあたり、保守間合いを再び短縮し深夜に列車を設定できるかどうか不透明です。

内陸移設区間の構造について

常磐線の復旧にあたり、駒ケ嶺~浜吉田間の線路は内陸に移設され、ほとんど新線建設に近い工事が行なわれました。本章では、新設区間を貨物列車が走行できるかについて解説します。

結論からいうと、常磐線の内陸移設区間は将来の貨物列車の走行を考慮した設計となっています。全線の最小曲線半径は1000m、最急勾配は10‰とされ、機関車牽引の貨物列車が走行可能な構造とされました。

ただし、駅構内の配線改良が必要な可能性があります。交換設備のある新地駅、山下駅の有効長はいずれもE657系10両編成が収容できる200m強であり、東北方面に運行されているコンテナ車20両編成400mの貨物列車が停車できません。このため、貨物列車どうしの列車交換は不可能で、貨物列車と旅客列車の交換にも制限が加わることになります。両駅とも高架橋等は将来の有効長延伸を考慮した構造とされており、貨物列車の運転再開にあたって有効長を延伸する工事が行われる可能性があります。

移設後の新地駅
移設後の新地駅

このように、常磐線の泉駅以北の貨物列車の復活は基本的には可能であり、必要なのは相応の設備投資と旅客会社との協議をまとめること、という感があります。今後どのような動きがあるのか注目しています。

参考:「常磐線復旧工事(計画・用地編) ―駒ヶ嶺・浜吉田間における鉄道移設復旧―」菅原正美 土木施行2016年3月号

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