構内運転・入換の貨物支線

構内運転・入換の貨物支線

はじめに

皆様は列車車両の違いをご存じでしょうか?

「列車」とは、「停車場外の線路を運転する目的で組成された車両」を指します。「停車場」とは駅や信号場、操車場のことです。ある駅から他の駅までの間の線路で列車を運転する場合、その列車には運転する区間の閉塞を確保したり後部標識(列車最後尾の赤い灯火または反射板)を設置したり機関車を最前部に連結したりといった措置が必要となります。これに対し、車両を「列車」とせずに駅構内で移動する場合は制限が緩くなります。駅構内で入換信号機を用いて入換をする場合(構内運転)は最高速度が45km/hとなるかわりに後部標識が不要となるほか、一定の条件で機関車を最後尾に連結することが可能となります。入換信号機を用いない入換の場合は最高速度25km/hとなり操車掛の誘導も必要となりますが、そのかわりに閉塞の確保もブレーキの貫通も不要となります。国鉄時代の1965年の文献(『運転取扱基準規程逐条解説』)をもとにまとめると次の表のようになります。

区分最高速度閉塞※1ブレーキ貫通後部標識車掌乗務※2動力車連結位置操車掛の誘導
列車線区による原則要原則最前部不要
構内運転45km/h原則要不要不要最前部不要
25km/h原則要原則要不要不要原則最前部 最後部も可不要
入換25km/h※3不要不要不要不要任意

※1 厳密には駅構内では閉塞という概念はありません。

※2 現在では貨物列車は原則として車掌乗務が省略されています。他にも書籍執筆以降60年弱の歴史の中で変わっているところがあるかもしれません。

※3 単行機関車の入換の最高速度は45km/hです。

構内運転や入換は、原則として駅や車両基地の構内のみで行われています。ところが、貨物支線を中心に、ある駅から別な駅まで構内運転や入換の方式で運転されている線区があります。本記事ではこのような貨物支線の構内運転や入換について詳しく解説します。

貨物支線での構内運転・入換の例

貨物輸送のコンテナ化・拠点間直行輸送化により短小な貨物支線の整理が進んだことから、2023年現在で構内運転・入換の方式で運転されている貨物支線は酒田港線・秋田港線の2例となりました。

羽越本線貨物支線(酒田~酒田港間) 通称「酒田港線」

酒田港駅に入線する"列車"
酒田港駅に入線する"列車"

1日1往復のコンテナ"列車"が入換の方式により運転されています。「入換」のため、写真でも入換動力車標識(向かって左側の尾灯点灯)が確認できます。制限速度は25km/hで、2.7kmの区間を10分で運転しています。運転の際に閉塞は行われていないようです。

奥羽本線貨物支線(土崎~秋田港間) 通称「秋田港線」

秋田港駅構内
秋田港駅構内
土崎駅の場内信号機相当の入換信号機
土崎駅の場内信号機相当の入換信号機

構内運転の方式で"列車"が運転されています。かつて2往復のコンテナ列車が運転されていましたが、秋田港駅で接続していた秋田臨海鉄道が廃止された2021年に定期列車の設定がなくなりました。同線はJR線で唯一の連動閉塞式採用区間となっています。連動閉塞式は隣駅まで連続した軌道回路を設けて列車の在線の有無を検知するものですが、隣駅までの間がすべて駅構内である以上、単に駅構内に軌道回路が設置されているだけという見方もできるのかもしれません。

なお、秋田港線ではクルーズ船接続のアクセス列車が秋田~秋田港間で不定期で運転されています。後述の通り構内運転の列車は「貨物列車しか運転しない支線での特例」として認められてきたものですので、旅客列車が構内運転の方式で運転されるというのは「例外中の例外」ということになります。

東北本線貨物支線(田端信号場~北王子間) 通称「北王子線」

北王子駅構内
北王子駅構内

2014年に廃止された北王子線でも入換扱いの貨物輸送が行なわれていました。こちらも用意されているスタフが列車運行時駅事務室に置いたままになっていたという目撃があるようで、閉塞は行われていなかったようです。

その他

かつて独立した貨物支線であったが、国鉄末期の合理化などで駅の構内扱いに変更された「元貨物支線」です。独立した貨物支線であった時代に引き続き入換による運転が行なわれています。

  • 総武本線(小名木川支線)越中島貨物駅構内旧小名木川駅~越中島貨物駅間
  • 鶴見線安善駅~旧浜安善駅間
  • 関西本線四日市駅~旧四日市港駅間

なぜ駅間なのに入換?

前述の通り、ある駅から別な駅まで、駅構内以外の線路で車両を運転する場合は列車とするのが原則です。貨物支線を構内運転や入換の方式で運転するのは、一見するとこの原則から外れているように見えます。どうしてこのような運転方法が可能なのでしょうか?

実は、旧国鉄で1964年に運転取扱基準規程が全面改正されるまでは「構内運転の方式で運転する列車」というものが認められていました。

改正前の規程では「貨物輸送のみを行なう区間で、その区間が1停車場間に限る場合は、鉄道管理局長が指定して、停車場外の本線を構内運転の方式により列車を運転することができる。」と定め、同じ列車であつても、構内運転の方式による列車を認めていた。このため、規定の理解という問題及び取扱いの統一ということが問題とされ検討をおこなつた。

『運転取扱基準規程逐条解説』伊多波美智夫著(日本鉄道図書)より

当時、構内運転の方式により列車を運転する区間は閉塞方式を施行している区間が19、閉塞方式を施行していない区間が23ありました(少なくとも当時は、列車の在線の有無が明らかな時は構内運転であっても閉塞を施行しないことが認められていました)。規程の改正にあたり、列車回数が片道10本以上または区間距離が3km以上の線区については、出発信号機・場内信号機の整備や緩急車連結の手配、車掌乗務などを行い、列車としての運転に格上げすることになりました。ただし車掌乗務については、条件付きで操車掛に車掌の業務を行わせることができる旨の規定も定められました。

一方、列車本数の多くない短小な支線では引き続き構内運転・入換を認めることとなりましたが、この場合停車場間の運転を構内運転・入換をすることについてどのような根拠を付けるかが問題となります。これについて、『運転取扱基準規程逐条解説』には次のように記述されています。

構内運転の方式によつて運転している区間の列車を、一般の入換えに格下げした場合、問題となるのは、停車場間の運転をどのようにするかということである。すなわち、構内運転の方式によつて運転している列車は、停車場間の運転であり、停車場外の本線を運転しているものであるから、このままの姿で入換運転に格下げることは理論上も取扱上も不可能である。これを解決するためには、停車場外の本線をなくしてしまうこと、言い換えると、先方停車場までを同一構内とすることであるが、駅間距離が短かい区間では、このような処置をとつても支障はない。また、営業取扱上も問題ないということになり、2駅間を同一構内として構内運転を認めることとした。

『運転取扱基準規程逐条解説』伊多波美智夫著(日本鉄道図書)より

すなわち、駅と駅の間の線路をすべて一方の駅の構内扱いとしてしまうことで、構内運転・入換の方式での運転を継続するということのようです。なんともとんちのような話ですが、ともかく1964年の規程全面改正でこのような取扱いへ変更され、おそらくは現在にも引き継がれていることと思います。

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