50年前も13往復だった室蘭本線が複線化された理由

50年前も13往復だった室蘭本線が複線化された理由

はじめに

かつて北海道や九州北部では石炭炭鉱が林立し、日本の産業を支えていました。炭鉱には国鉄の駅から引き込み線が敷設され、貨物列車が石炭車を連ねて船舶への積み替え設備を備えた港まで石炭を輸送していました。石炭から石油へのエネルギー革命、さらに国内の人件費上昇や坑道内での事故の多発を受けて国内の炭鉱の大半は閉山し、石炭を輸送する貨物列車も2020年までに廃止されています。

かつて石炭を輸送していた路線のうちいくつかは現在でも残っています。例えば筑豊本線常磐線室蘭本線はかつて石炭貨物列車が多数往来した路線として知られています。

室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
常磐線配線略図(抜粋)
筑豊本線配線略図(抜粋)
筑豊本線配線略図(抜粋)

これらの路線の多くは明治・大正時代から複線化されています。理由として考えられるのが、線路容量の問題です。単線では交換可能駅で列車交換が必要になるため、石炭を満載した貨物列車はもちろん炭鉱の設置で増加した沿線人口の足となる旅客列車も運転されるこれらの路線では、単線のままでは線路容量が不足する自体も考えられます。実際、筑豊本線は貨物列車や地域輸送の普通列車のほか関西方面と熊本・佐世保方面を直方経由で結ぶ長距離優等列車の設定があり、複線だけでは列車を捌ききれなかったのか中間~折尾間は一時複々線化されていました。現在でも中間駅の両開き分岐器にその名残がみられます

ただ、国鉄時代の1968年10月改正時点でも室蘭本線苫小牧~岩見沢間を通しで運転される旅客列車はわずか7往復、夕張線への直通や区間列車を含めても13往復で、日中には列車間隔が数時間空く時間もありました。

室蘭本線 旅客列車時刻表(『ダイヤエース時刻表昭和43年10月号復刻版』をもとに作成)
下り
列車番号列車名始発苫小牧発追分着追分発岩見沢着行先
2721D苫小牧5:065:365:46=夕張
824レ追分6:167:13札幌(岩見沢経由)
221レ苫小牧6:086:516:557:57岩見沢
712D急行夕張1号夕張=8:188:239:04札幌(岩見沢経由)
223レ室蘭8:018:438:479:41岩見沢
2854D夕張=9:439:4710:36札幌(岩見沢経由)
225レ室蘭10:0610:5210:5811:55岩見沢
227レ室蘭13:1914:0314:1015:10岩見沢
2733D苫小牧14:5615:3215:36=夕張
229レ函館16:2717:1417:2118:19岩見沢
2702D急行夕張2号夕張=18:4418:5219:38札幌(岩見沢経由)
231レ室蘭18:5119:3919:4320:40岩見沢
233レ室蘭21:1321:5621:5822:51岩見沢
上り
列車番号列車名始発岩見沢発追分着追分発苫小牧着行先
224レ岩見沢5:496:486:567:43室蘭
2724D夕張=8:358:389:15苫小牧
711D急行夕張1号札幌(岩見沢経由)8:168:569:01=夕張
226レ岩見沢9:1310:1810:2110:06*長万部
228レ岩見沢12:0212:5813:0013:42室蘭
230レ岩見沢13:4714:4414:4815:29室蘭
232レ岩見沢16:2317:2217:2818:15室蘭
829レ札幌(岩見沢経由)18:3419:33追分
2736D夕張19:4019:4120:17苫小牧
2701D急行夕張2号札幌(岩見沢経由)19:0919:4719:52=夕張
234レ岩見沢19:4420:4420:5021:34室蘭
2865D小樽(札幌・岩見沢経由)20:5421:5121:59夕張
236レ岩見沢21:5622:5923:0523:48苫小牧

* 226レの苫小牧着時刻は原典には10:06と記載されていますが、11:06の誤りと思われます。

室蘭本線旅客列車ダイヤグラム(1968年10月改正)
室蘭本線旅客列車ダイヤグラム(1968年10月改正)

はたして、同区間を複線化させなければならないほど線路容量が逼迫していたのでしょうか?

室蘭本線の貨物列車の運転本数

そこで、上の時刻表とは少々時期が異なりますが、1970年時点での貨物列車の時刻表を調べてみました。

室蘭本線 貨物列車時刻表(『貨物時刻表 昭和45年10月現行』をもとに作成)
下り
列車番号列車名始発苫小牧発追分着追分発岩見沢着行先
255レ専用普通貨物本輪西(0:06)(1:02)(1:08)(2:37)永山
2471レ専用普通貨物苫小牧0:30(1:20)(1:56)(3:37)赤平
2479レ専用普通貨物室蘭(0:57)1:512:51(4:01)芦別
3561レ(地)きたみ3号東室蘭1:54(2:55)(2:59)4:12北見
2763レ専用普通貨物東室蘭(2:08)3:053:40=夕張
2661レ専用普通貨物苫小牧2:50(3:38)(3:44)5:03幾春別
263レ五稜郭(2:58)(3:58)(4:07)5:27北旭川
291レ追分4:158:19岩見沢
275レ苫小牧3:24(4:27)(5:13)6:37岩見沢
1461レ五稜郭3:464:465:406:48釧路
251レ専用普通貨物東室蘭(4:16)5:576:30栗山
8281レ苫小牧5:326:277:029:00岩見沢
2663レ専用普通貨物苫小牧6:207:107:28(8:31)幾春別
6271レ東室蘭6:33(7:34)(8:30)10:07岩見沢
9663レ専用普通貨物苫小牧7:358:23追分
2765レ専用普通貨物室蘭(7:41)8:369:16=夕張
8277レ五稜郭(8:21)9:2410:2211:34岩見沢
2977レ専用普通貨物追分9:00栗山
2281レ専用普通貨物苫小牧9:5610:4411:12(12:40)砂川
2767レ専用普通貨物室蘭(10:26)11:2011:45=夕張
261レ五稜郭(10:42)(11:39)(11:49)(13:27)北旭川
7475レ専用普通貨物東室蘭11:1812:1312:48(14:00)芦別
293レ東室蘭12:1413:58追分
267レ苫小牧12:3013:1913:48(14:49)北旭川
6285レ函館(12:53)(14:23)(14:45)16:05岩見沢
3253レ五稜郭13:5514:5615:2816:57北旭川
2667レ専用普通貨物東室蘭(14:23)15:1815:55(17:55)幾春別
2769レ専用普通貨物苫小牧14:5516:0416:16=夕張
295レ追分16:3121:40岩見沢
3465レ(地)くしろ1号五稜郭(16:07)17:0518:01(19:25)釧路
299レ東室蘭16:2818:56追分
257レ専用普通貨物苫小牧16:54(17:43)(18:23)19:36北旭川
561レ苫小牧17:4118:3218:54(20:16)遠軽
2979レ専用普通貨物苫小牧18:1719:0219:22栗山
265レ五稜郭(18:43)19:3620:4421:58旭川
1293レ苫小牧19:2121:20追分
2285レ専用普通貨物本輪西19:34(20:29)(21:08)(22:46)砂川
253レ専用普通貨物本輪西(20:58)(21:53)(22:07)(23:21)新旭川
3255レ(地)あさひ3号苫小牧21:32(22:20)(22:36)(23:42)北旭川
469レ五稜郭(21:44)22:4323:35(0:56)釧路
3251レ(地)あさひ1号東室蘭(22:09)(23:03)(23:08)(0:30)北旭川
2477レ専用普通貨物苫小牧22:41(23:29)(0:08)(1:17)芦別
467レ東室蘭23:14(0:00)(0:22)(1:39)帯広
3463レ(地)くしろ2号東室蘭23:360:311:32(2:54)釧路
上り
列車番号列車名始発苫小牧発追分着追分発岩見沢着行先
9974レ専用普通貨物追分2:10(3:08)室蘭
266レ北旭川(1:24)(2:59)(3:30)(4:23)五稜郭
9478レ専用普通貨物芦別(0:35)2:012:453:42苫小牧
456レ専用普通貨物池田(1:00)2:233:003:57苫小牧
7478レ専用普通貨物芦別(1:48)3:133:40(4:36)室蘭
296レ岩見沢2:135:597:3810:15東室蘭
3362レ(地)むろらん名寄(2:36)(3:49)(3:54)4:43東室蘭
254レ専用普通貨物新旭川(3:00)(4:10)(4:40)(5:33)本輪西
1272レ岩見沢3:19(4:55)(5:04)(5:56)東室蘭
1274レ岩見沢3:59(5:23)(5:28)6:21苫小牧
2470レ専用普通貨物芦別(4:08)5:366:137:10苫小牧
8268レ岩見沢4:366:297:24(8:21)東室蘭
1354レ稚内(5:34)(6:38)(7:24)五稜郭
1454レ釧路(6:40)(7:50)(8:01)(8:47)五稜郭
250レ専用普通貨物北旭川(6:50)(8:10)8:57苫小牧
564レ網走(7:38)(8:58)(9:15)10:06五稜郭
558レ専用普通貨物北見(8:19)(9:53)(9:57)10:47苫小牧
6274レ岩見沢8:30(10:50)(10:57)(11:49)東室蘭
298レ岩見沢9:2613:2514:2016:17東室蘭
1356レ稚内(9:47)(11:08)(11:22)(12:11)五稜郭
1276レ岩見沢10:20(12:03)(12:08)13:00東室蘭
2972レ専用普通貨物栗山11:4112:30(13:26)東室蘭
262レ北旭川(11:15)(12:37)(12:42)(14:01)五稜郭
1452レ釧路(12:28)(13:32)(14:17)五稜郭
460レ帯広(12:48)(14:07)(14:12)15:10五稜郭
1278レ岩見沢13:1816:0016:40(17:36)東室蘭
7770レ専用普通貨物追分13:4215:45東室蘭
2760レ専用普通貨物夕張=15:2515:5816:57苫小牧
562レ北見(13:59)(15:06)(15:19)(16:07)五稜郭
2662レ専用普通貨物幾春別(14:12)16:25追分
2762レ専用普通貨物夕張=(16:55)(17:07)18:04室蘭
2472レ専用普通貨物芦別(14:44)17:1017:40(18:37)東室蘭
3466レ(地)はこだて3号釧路(15:20)(16:39)(16:49)(17:50)五稜郭
2284レ専用普通貨物砂川(15:41)17:4918:1119:08苫小牧
1290レ岩見沢16:2820:34追分
2664レ専用普通貨物幾春別(17:25)18:5419:5520:52苫小牧
462レ釧路(18:00)(19:10)(19:15)(20:04)五稜郭
2764レ専用普通貨物夕張=20:4321:20(22:17)東室蘭
2474レ専用普通貨物芦別(19:22)21:1721:5222:49東室蘭
256レ専用普通貨物北旭川(19:58)(21:03)21:49苫小牧
2286レ専用普通貨物砂川(20:26)22:1323:15(0:12)本輪西
264レ旭川(21:08)(22:21)(22:27)23:18五稜郭
6278レ岩見沢22:01(23:55)(0:01)(0:52)東室蘭
278レ岩見沢22:32(0:33)(0:40)(1:32)五稜郭
2974レ専用普通貨物栗山22:57追分
2766レ専用普通貨物夕張=(23:52)(0:10)1:07苫小牧
252レ専用普通貨物北旭川(23:03)(0:18)(0:23)(1:16)五稜郭
7666レ専用普通貨物幾春別(23:21)1:26追分
2288レ専用普通貨物砂川(23:46)1:121:402:37苫小牧

(地)は地域間急行貨物列車を表します。()内の時刻は運転停車または通過を表します。

下り44本、上り49本もの列車が通過しており、確かに線路容量から複線化が要請されたと考えられます。夕張、幾春別、砂川など石炭炭鉱の最寄り駅への貨物列車のほか、現在は石勝線を経由している帯広・釧路方面への貨物列車も岩見沢経由で運転されていました。なお、1970年といえば石炭の需要が減少し始めた時期となりますので、それ以前の時刻表ではさらに列車本数が多かった可能性もあります。

上の1968年の旅客列車のダイヤとまとめてダイヤグラムにしてみました。旅客と貨物で異なる年のダイヤを無理やり同じ図に落とし込んだ不正確なダイヤグラムなので、あくまで当時の列車運転の雰囲気を感じていただくのみとしてください。

室蘭本線ダイヤグラム(旅客列車は1968年10月改正、貨物列車は1970年10月現行)
室蘭本線ダイヤグラム(旅客列車は1968年10月改正、貨物列車は1970年10月現行)

圧倒的な列車本数です。いつ保線作業をしているのか分からないほど昼夜関係なく貨物列車が運転されていたようです。これであれば複線化されたのも納得でしょう。

室蘭本線が複線化されたもう1つの理由

室蘭本線が複線化された線路容量以外の理由が、こちらのサイトに詳しく記載されています。以下、該当サイトの記述内容をかみ砕いて説明していきたいと思います。

室蘭本線では、D50形やD51形蒸気機関車により2400t牽引の列車が運転されていました。国鉄の主力石炭貨車の1つであったセキ3000形は積車換算両数4.5両なので、単純に割り算すれば約50両編成、1編成の長さは500m近くになります。現在東海道本線で運転されている貨物列車は1300t、コンテナ車26両編成で約530mで、長さはそれほど変わらないながら倍以上の重さの列車を牽引していたことになります。

国土地理院が公開している空中写真のうち、1940~1950年代のものには当時運転されていた長大編成の貨物列車が写っています。追分駅では、現在は撤去されてしまった3番線(上り着発線)に長さ約480mの貨物列車が停車しています。東室蘭操車場でも、室蘭方面組成線である4番線に長さ600m近い列車が停車しており、列車の後方は分岐器まではみ出しています。

追分駅付近空中写真
追分駅付近空中写真
東室蘭操車場付近空中写真
東室蘭操車場付近空中写真

単線区間で列車の長さが長くなるとどのような不都合が生じるかというと、例えば交換駅の有効長も500m以上とする必要があります。現在であればそれほど難しい話ではないかもしれませんが、当時は非自動閉塞方式であり信号や分岐器の操作も手動なので、沿線の各駅を列車が発着するたびに駅員が500m離れた上下列車の運転台を往復してタブレットを受け渡したり、駅舎から数百メートル離れた分岐器のてこを人力で操作する必要があり、およそ現実的ではありません。

では、なぜ石炭の貨物列車はこれほど長大になったのでしょうか。まず、室蘭本線では使用される石炭車がすべて走行抵抗の小さいボギー貨車であり、さらに上記のブログにもある通り輸送区間の大部分が平坦または下り坂だったことがあります。山沿いで産出した石炭を室蘭港の積み替え設備まで運んでいたので当然と言えば当然ですが、このため2800tの長大編成をD51形単機で牽引することができました。もちろん、帰路は上り坂となってしまうのですがこのとき貨車は空車なので問題はなかったでしょう。

ちなみに、九州地区でも比較的長大な貨物列車が運転されていました。下記写真で筑豊本線の短絡線経由黒崎方面へ向かっている貨物列車は長さ約330mで約50両の貨車を連ねていますが、積車でも列車の重量は1200t程度であり北海道の貨物列車より控え目です。九州地区では2軸貨車の石炭車が使用されていたこともあって、長さのわりに1列車で運ぶ石炭の量が少なくなっています。

折尾駅付近空中写真
折尾駅付近空中写真

複線区間のその後

1960年代以降のエネルギー革命で石炭の需要は急減し、1980~90年代までに国内の炭鉱のほとんどが操業を停止しました。現在国内の鉄道で石炭を輸送する貨物列車は運転されていませんが、石炭輸送の名残は各地にみられます。

かつて石炭を輸送していた路線のうち、大正時代以前に複線化され現在も複線区間が維持されている主な例は次のようなものがあります。

  • 函館本線(小樽~砂川間)
  • 室蘭本線(室蘭~東室蘭、幌別~竹浦、苫小牧~追分)
  • 常磐線(日暮里~いわき)
  • 筑豊本線(若松~小竹)
  • 平成筑豊鉄道伊田線

多くの路線はその後旅客輸送の幹線として生まれ変わり、特急列車や通勤列車の運転に複線の線路設備が生かされています。平成筑豊鉄道伊田線も国鉄末期には運転本数が17往復にまで落ち込みましたが、現在では列車本数は倍増し地域の足として生まれ変わっています。

一方で、室蘭本線の沼ノ端以北の複線区間は完全に過剰設備となっています。この区間は大正時代に沼ノ端~追分間、その後昭和に入り追分~三川間、由仁~栗丘間が複線化され、志文~岩見沢間は岩見沢駅に直行する線路と岩見沢操車場を経由する線路の単線並列となりました。国鉄が民営化された後、志文~岩見沢間の単線並列は単線に戻され、栗山~栗丘間はトンネル崩落に伴い下り線が放棄され単線となりました。しかし、残る区間はあいかわらず複線の過剰設備のままです。複線自動閉塞式の閉塞信号機が律儀に2km間隔で植えられた線路を通るのは1日8.5往復の普通列車と下り1本、上り5本の貨物列車のみとなりました。

室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線配線略図(抜粋)
室蘭本線の複線区間
室蘭本線の複線区間
室蘭本線ダイヤグラム(2021年3月)
室蘭本線ダイヤグラム(2021年3月)

室蘭本線のこの区間はJR北海道により当社単独では維持することが困難な線区に指定されており、資料では「複線区間など石炭輸送全盛期の過大な鉄道設備が残っております」と言及されています。今後の動向にも注目しています。

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