クアラルンプールLRTの弾性クロッシング

マレーシアの首都・クアラルンプールで見つけた珍しい分岐器のレポートです。

クアラルンプールのLRT

マレーシアの首都・クアラルンプールは、周辺の都市圏もあわせて人口700万人を超える大都市です。マレーシアは車社会として知られていますが、中でもクアラルンプールでは交通量の増大に伴う深刻な渋滞が社会問題となっています。朝夕の通勤ラッシュ時には道路が車で埋まり、大幅に遅延したバスは乗客ですし詰め、道路の立体交差化も焼け石に水の状態です。これを解決するため、クアラルンプールでは長距離幹線に近郊電車を運転したりLRTやモノレールを建設したりといった方法で都市交通の整備が急ピッチで行われています。

深刻な交通渋滞
深刻な交通渋滞
マレーシア国鉄の近郊電車(KTMコミューター)
マレーシア国鉄の近郊電車(KTMコミューター)

今回は、クアラルンプールに整備された高架LRTのひとつ、クラナ・ジャヤ(Kelana Jaya)線をレポートします。クラナ・ジャヤ線は、クアラルンプール市街を南北に貫きプトラ・ハイツ(Putra Heights)駅とゴンバッ(Gombak)駅を結んでいます。路線全長は46.4kmで、完全自動運転の無人新交通システムとしては世界有数の長さとなっています。

乗車するのは、マレーシア国鉄近郊電車(KTMコミューター)との乗換駅であるスバン・ジャヤ(Subang Jaya)駅です。同駅からクアラルンプール中心部を通過し、北方のゴンバッ駅をめざします。

スバン・ジャヤ駅
スバン・ジャヤ駅
スバン・ジャヤ駅
第三軌条方式電化である

LRTという呼び方にはなっていますが、地上の交通渋滞を避けるためほぼ全線が高架または地下構造になっています。乗車中、車窓から車両基地も見ることができました。

車両基地
車両基地

ゴンバッ駅で分岐器を観察

乗車中、駅に設置されている渡り線が気になり、終着のゴンバッ駅で詳細に観察してみることにしました。

ゴンバッ駅の分岐器
ゴンバッ駅の分岐器

お気づきになりましたでしょうか。トングレールとともに、クロッシング部が弾性化されています。このような構造の線路はあまり見たことがありません。

ゴンバッ駅の分岐器
分岐側に切替えた状態

分岐器は、線路がスライドして進路を切り替えるポイント部と分かれた内側のレールが交差するクロッシング部で構成されています。このうち、ポイント部で進路を切り替える役割を持つ先端のとがったレールをトングレールといいます。通常の分岐器ではトングレールが可動し進路を切り替えるのですが、トングレールの付け根(リードレールとの接続部)には継ぎ目が避けられないため乗り心地が悪くメンテナンスも必要であるという欠点があります。

このため開発されたのが弾性ポイントです。弾性ポイントでは、トングレールとリードレールが一体化しており、転換装置のモーターの力でレールを曲げることで進路を切り替える仕組みになっています。このような構造にすることで、レールの継ぎ目を1つ減らすことができます。硬い鉄のレールが曲がるというのはにわかには信じられませんが……。

通常のポイント
通常のポイント
弾性ポイント
弾性ポイント

ゴンバッ駅の分岐器にも弾性ポイントが使用されています。弾性ポイントはゴンバッ駅に限らず、日本でもJRや私鉄などの本線上を中心に使用されています。

ゴンバッ駅の分岐器
直進側に切替えた状態
ゴンバッ駅の分岐器
分岐側に切替えた状態

一方、分岐器のクロッシング部には大きな欠線部があり、ここを車輪が通過する際の上下動も乗り心地の悪さや煩雑なメンテナンスの原因となっています。このため、ポイント部のトングレールと同様に、クロッシング部の尖ったレール(ノーズレール)を可動としてクロッシング部の欠線部分をなくしたノーズ可動クロッシングが開発されました。ノーズ可動クロッシングは日本の新幹線などでも多用されていますが、部品点数が多くメンテナンス性の向上にはあまり寄与しない欠点があります。

通常のクロッシング
通常のクロッシング
ノーズ可動クロッシング
ノーズ可動クロッシング

ここで、改めてゴンバッ駅のクロッシング部を見てみます。分岐器が切り替わるとともにノーズが動いて進路の欠線部分を埋めていて、ノーズ可動クロッシングになっていることが分かります。しかし、よく見ると分岐器を転換する際にノーズ部分のレールが曲がっていることが分かります。いわば、ノーズ可動クロッシングに弾性ポイントの利点を取り入れた、「弾性クロッシング」ともいうべき構造となっています。

ゴンバッ駅の分岐器
直進側に切替えた状態
ゴンバッ駅の分岐器
分岐側に切替えた状態
弾性クロッシング
弾性クロッシング

さらに、駅の反対側に移動します。こちら側には留置線が6本設置されているのですが、分岐器を見るとすべて弾性ポイント・「弾性クロッシング」が使用されていました。ノーズ可動クロッシングは可動部のないクロッシングに比べて効果でメンテナンスも複雑なため日本国内では本線上の使用が中心で駅構内や車両基地などでは使用されないのですが、「弾性クロッシング」を採用することでメンテナンス性も向上しているのかもしれません。

ゴンバッ駅の分岐器
駅北側の車両基地
ゴンバッ駅の分岐器
すべて弾性分岐器となっている

今回は、国内でほとんど見かけない構造の分岐器をレポートさせていただきました。メンテナンスフリーと乗り心地を両立させた先進的な構造の分岐器だと思いますので、保安上の問題がなければ今後日本でも普及が進むかもしれません。

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